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Interview インタビュー

編集者の視点を取り入れ急成長した海外版権ビジネス、その可能性と今後の課題

お話を伺った方

株式会社世界文化ホールディングス
情報管理・編集総務部
海外版権ビジネスチーム
副部長 飯塚友紀子

Table of contents
  • 「出版コンテンツの輸出入」として海外の出版社と書籍の翻訳出版権についてやり取りを行う海外版権ビジネス。
  • 編集者だった経験を活かして、エージェントや海外の出版社とコミュニケーションを取る。
  • 長年クオリティの高いもの・美しいもの・伝統あるものを数多く真摯に作ってきた世界文化社グループの強みを活かして、クオリティの高いラグジュアリーなコンテンツを生み出していきたい。
世界文化社グループは、2023年、「各国現地出版社のニーズと、自社コンテンツとの有益なマッチング」を行うため、情報管理・編集総務部 海外版権ビジネスチームを新しく立ち上げました。その結果、短期間で国内外エージェントや現地の出版社と密なネットワークを構築し、過去最高の売上を達成。グループの海外版権ビジネスは拡大しつつあります。今回は、海外版権ビジネスチームで副部長を務める飯塚友紀子に、世界文化社グループの海外版権ビジネスに対する取り組みとこれからの展望についてお話を聞きました。

絵本を突破口に海外版権ビジネスを拡大

飯塚さんのこれまでの経歴を教えてください。

入社以来、株式会社世界文化ワンダーグループで月刊絵本や保育雑誌、教材などの編集者をしていました。2023年4月に異動し、現在は株式会社世界文化ホールディングス情報管理・編集総務部で海外案件を担当しています。海外ではライツマネージャーと自己紹介することもありますね。

世界文化ホールディングスで取り組んでいる海外版権ビジネスとは、どういうものなのでしょうか?

分かりやすく言うと、「出版コンテンツの輸出入」です。輸出は、世界文化社グループが出版している書籍の翻訳出版権を海外の出版社に購入していただき、現地で翻訳して出版する、というのがビジネスの流れです。輸入の場合はこれが逆になり、海外で出版されている書籍の翻訳権を当社が購入し、国内で翻訳して書籍として流通させる流れです。当社は両方を取り扱っていて、これらを海外版権ビジネスと呼んでいます。

なぜ今、世界文化ホールディングスでは海外版権ビジネスに注目しているのでしょうか?

まずは、海外でニーズがあることです。これは以前からですが、中国・台湾・韓国といったアジアの国々では、日本のコンテンツに対する関心が非常に高いのです。タイやベトナムといった東南アジアでも、市場が成熟し、良い本を翻訳して自国の流通に取り入れたいといった動きがあり、日本のコンテンツに対しての関心が高まっています。

そして、少子化の影響により、日本国内では将来的に読み手が減少していくと考えられていることも大きいでしょう。今後国内での市場の広がりが限られていく日本の出版社は、今から世界に向けてコンテンツを積極的に広げていく必要があります。これは出版社だけでなく、文化庁といった国の機関でも同様の危機意識があるようで、海外版権ビジネスを伸ばすための研修や補助といった後方支援も行われています。

当社グループの視点で見てみると、ここ数年は絵本のコンテンツが非常に充実しています。当社グループ内には保育園や幼稚園につながりがあって教育をベースとした絵本などを制作する編集部と、書店と長年関わり一般的な読者のニーズに応える児童書を制作している編集部があります。このように異なる背景を持つ編集部があることで、ラインナップが多彩になっていますね。さらに、これらの質の高い作品は、さまざまな賞を受け、海外でも人気が高いのです。だからこそ海外版権ビジネスでは、絵本コンテンツが強い武器になると考えています。

絵本『ねことことり』は、繁体字、簡体字、韓国語に翻訳されている。

日本の絵本が海外で評価されていたり、人気を集めたりしている理由について、もう少し詳しく教えてください。

アジアとヨーロッパとでは、そもそも求められているものが違うと感じています。まずアジアでは、教育的な内容に関心が集まっているようです。例えば中国も韓国も非常に教育熱心で、子どもたちに投資をする傾向があり、科学や生活習慣などについて本を通して子どもたちに教えていきたいという意識が高まっているのではないかと思います。そしてこのコンテンツを提供する力は、まだ日本が一歩リードしている。そのため日本の有益なコンテンツが欲しい、という流れがあるのではないでしょうか。

ヨーロッパについては私も勉強中なのですが、絵画のように絵が描き込んである芸術的でクオリティの高い絵本が求められていると感じます。本のテーマもダイバーシティや移民問題など、思考やマインドを育む絵本が現地では多く並んでいますね。ヨーロッパに関しては、求められているものを、当社も提供できるよう、視野を広げた商品開発をしていきたいです。

新設の部署で海外版権ビジネスのゲートキーパーを担う

2023年度、海外版権の売上が過去最高となったそうですが、大きく成長できた要因は何だと思われますか?

2023年4月に情報管理・編集総務部 海外版権ビジネスチームができたことで、これまで複数の部署にまたがって扱っていた海外案件を一括してコントロールするようになりました。私たちの部署が世界文化社グループの海外に向けてのゲートキーパーのような役割を担うという仕組みになったのですが、この業務の再構築が要因のひとつではないかと思います。

さらに、いわゆるコロナ禍が明けて、自由に海外のブックフェアなどにも参加できるようになった点も大きいです。私たちの部署でもさまざまな活動を行っていますので、それぞれが結果に結びついてきているのは嬉しいですね。

飯塚さんは現在の部署に配属されて、どのような活動を行っていますか?

まず「私たちが海外版権ビジネスを行うにあたって目指すものは何か?」を考えて、目標を掲げました。これは適切に市場のニーズを把握し、それに合わせたコンテンツのマッチングを行うことだと思います。日々私たちの活動がマッチングにつながっているのかを考え、チームで自問自答し、この指針からぶれることなく着実に実践するように心がけています。

もう一つ、私たちは2023年末から、ローマ、台湾、東京、ボローニャ、ソウルのブックフェアに参加しています。現地の出版社様・エージェンシー様との商談で各地のニーズを知ることができ、とても貴重な機会となりました。台湾でご挨拶した出版社様が来社され、オファーをいただいたこともあります。普段はメールでのやり取りが多い国内エージェンシー様と直にお会いしてご協力し合えたこと、各国のブックフェア開催事務局の方々とつながりが持てたことも、将来のビジネス展開に欠かせない経験となりました。今後も、海外ブックフェアに参加し、現地との密な関係性を構築できるよう活動していきたいと思います。

飯塚さんは現地の方々とのつながりを次々と広げていますが、それはなぜ可能なのだと思いますか?

私は編集者だったので、本作りとは一体何なのかといったことは長年の経験を通しておおよそ理解しています。実際に商談を行うときの相手は、現地出版社の編集者であったりするので、本の中身や作り方などが分かると、お互いに共感しやすいのです。だからこそ、自分の今までの経験を活かしてエージェントや海外の出版社とコミュニケーションを取るようにしています。

目標は世界を意識した商品作りと流通の開拓

他社も海外版権ビジネスに力を入れ始めている中で、世界文化社グループの強みはどのような点だとお考えでしょうか?

海外版権ビジネスが成立するのは、現地の出版社が「自分たちの会社では、この本は作ることができない(から版権を買おう)」と思うかどうかです。そういった観点で見ると、当社グループは絵本だけでなく、雑誌『家庭画報』に代表されるように、長年クオリティの高いもの・美しいもの・伝統あるものを真摯に作ってきた出版社ですから、そこで生み出された商品が数多くある、という点が強みだと思います。

今後も私たちの強みである、クオリティの高いラグジュアリーなコンテンツを生み出していきたいですね。例えば茶道や着物、日本の建築物といった伝統的な日本らしいもの、さらに時計や宝石といったコンテンツは、これまで海外版権としてはあまり取り扱っていませんでしたが、そういったものもご紹介できると、当社としての特徴が出しやすいのではないかと考えています。

絵本に並び、実用書に対する需要も高い。左:『インドカレーのきほん、完全レシピ』の韓国語版、右:『京都 古民家カフェ日和』の繁体字版

海外版権ビジネスの領域における目標と展望について教えてください。

英国や韓国、台湾といった人口が1億人を切っているような地域では、最初から世界を相手にモノを作ろうという視点を持っています。それは少子化が進む日本でも求められてきていることだと思うので、私たちも世界を市場として意識した商品作りをしていきたいですね。

加えて流通の開拓が必要だと思っています。本だけでなくIPビジネスなど、一度作ったコンテンツをいかにマルチで展開していくかが必要になってくるでしょう。そのマルチ展開の方法を確立することが、今後の私たちの部署の目標だと思っています。

ありがとうございました。

※2024年9月取材。本記事の所属、役職、内容等は取材当時のものです。

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